月曜日, 8月 20, 2012

あの応援歌は立教のでも天理のでもないよ、という話

うーん、天理も負けちゃったしぃ、松井くんの桐光も消えたしぃな今日この頃。

天理高校の応援といえば「セントポール」、「オブラディ・オブラダ」、「ワッショイ」…
その「セントポール」って Saint Paul's、つまり立教大学の別称で、あれ立教の応援歌じゃん。
テンリオーノミコトまつってるとこが聖パウロ様の歌なんか唄っちゃってていいの?

と思ってた時期がぼくにもありました。
それが違うんです、たぶん。
寄り道しながら長い長い「だろう」とか「かも」に満ち溢れた無用な物語。


まずWikipediaの立教大学の項目ではこんなんなってます。
第二応援歌:St.Paul's will shine tonight
昭和3年(1928年)、米国カリフォルニア州立大学フレズノ校野球部が来日し、本学バスケットボール部とバスケットボールの親善試合を行った。試合後、フレズノ校側が自校の応援歌「セント・フレズノ ウィル シャイン…」を「リッキョー ウィル シャイン…」と歌い、勝った立教を祝福した。この歌はバスケ部歌となり、やがて大学の応援歌となった。授業開始・終了時のチャイムとしても使われている。
若干間違いがあるようです。
まず来日したのは「米国カリフォルニア州立大学フレズノ校野球部」などではなく「フレノ野球団」、ひびきは似てますが習志野空挺団とはなんと無関係、当地の日系人らによるFresno Athletic Clubを母体としてNisei Baseball League(カリフォルニアの日系人リーグ)に属した日系人チームです、きっと。
来日記録は1924,27,37年とあるので立教と対戦したのはたぶん1927年(昭和2年)の時。
野球チームとして来たけど立教とやったのはバスケットの試合というのは合ってる、ようです。
立教大のチームと対戦したんだから相手も大学チームだろう、ってんで勝手にフレズノ大学って思い込んだ人がいて、フレズノでその頃からあった大学らしい大学ったら加州立大フレズノ校だろってんで親切な人がWikipediaにわざわざメタリンクまで入れて編集しちゃった、ようです。
しまいにゃ「聖フレズノ大学」なんて言ってる人もいるようですが"Fresno"とはトネリコのスペイン語であって聖人では無い以上、決して聖フレズノ大学なんてのもこの世に存在しません、よね。
当然Wikipediaの記述、 「セント・フレズノ ウィル シャイン…」もありえません。

なんか関係ないけど思い込みで間違い自分で刷り込んじゃってる人って結構見かけます。
その国って建国以来ぜったいに共和制だったことないし、とかもう誰だよそれとか。
ほんと関係ないですよねごめんなさい、話を戻します少しだけ。
でも立教や天理は当分出てきません。

「フレスノ野球団」を創設したのはKenichi Zenimura(銭村健一郎)という人です、たぶん。1920年のことだったようです。この英語版Wikipediaの項目にもありますが、戦時中の日系人強制収用時にアリゾナ州のヒラリバー戦争移住センター内に野球場を作ったりもしてます。当時「カラテキッド」のパット・モリタもこのヒラリバーに収容されてました。野球場は「ゼニムラ・フィールド」と呼ばれたようです。
パット・モリタは強制収用の開放から半世紀ちょっと経った98年、ヒラリバー収容所からもほど近いダイヤモンドバックスのホーム、チェイス・スタジアムでの開幕戦で合衆国国歌独唱を務めました。
全く別の長い話になりそうなので割愛しますが、そのへんの件りは荒井一悦「ゼニムラ・フィールド”跡で実現した「戦争と平和」のキャッチボール」に詳しいです。

銭村健一郎の子の健次健三健四についてはWikipedia日本語版に項目があるのに「アメリカ日本人野球の父―銭村健一郎」の項目が英語版にしか無いのは甚だ残念ですが作成するのも面倒なんでまた今度そのうち。
そのかわりと言っちゃかわりになってませんがNisei Baseball Reserch Projectによる立派な評伝が出版されてるようですよ。

健一郎は広島の出身ということで、やっぱりその時代広島、島根、沖縄あたり、飢饉寸前で食い詰めて移民する人達が多かったんですねぇ、去年だかやってた橋田壽賀子のドラマでも移民の出身はその辺だし。小林克也も昔日系人の真似して「わしらはのぅ、ハワイでのぅ」って広島弁でした。で息子三人は戦後スポーツ選手として日本に帰国(?)するんですが、健次はサッカー選手としてサンフレッチェの前身東洋工業へ、健三、健四は野球選手としてカープへ、皆ちゃんと広島に帰ってきてるんです。なんだかしみじみきます。

さてケンイチ・ゼニムラですっかり無用に長々引っ掛かってしまいました。
とにかく彼が率いる「フレスノ野球団」が昭和2年に来日した時、立教籠球部に対してエール交換として歌ってくれた"St.Paul's will shine tonight"、普段Fresnoと歌ってたとこをリッキョーに置き換え、後にそれがSt.Paul'sに変化した訳で、すなわち原曲は"Fresno will shine tonight" って曲だったのでした、って簡単に話は終わらせない。


ホントのタイトルは"Our boys will shine tonight"って言うんです。
少なくとも南北戦争時代には歌われていたらしい作詞作曲者不詳、いわゆるTrad.扱いの古い曲です。
著作権消滅してます、ってか元々権利者いません。
従って立教にも天理にも遠慮は要らない、どこでも好きなように使っていいんです。

歌詞なんぞを。
Our boys will shine tonight, our boys will shine,
Our boys will shine tonight, our boys will shine,
Our boys will shine tonight, our boys will shine,
When the sun goes down and the moon comes up,  our boys will shine.
いろいろバリエーションもあるようですが、一応これが正調かと。
で、この"Our boys"の部分をそれぞれ自分とこに置き換えて歌う、アレと一緒ですね、「私を野球に連れてって "Take Me Out to the Ball Game"」の歌詞の"home team"の部分をそれぞれのチーム、YankeesとかMarinersとかに置き換えて絶叫する、あれと一緒。
全米あちこちどこでも使ってるFight Song(応援歌)のスタンダードナンバーです。


例えばこれはテキサス州、Richardson High School、バスケットの試合後のやつ。
1分30秒のあたりからやにわに始まる


リーハイ大学の"Lehigh will shine tonight"
上記リーハイの何故かもろ肌脱いで独唱してる親父バージョン



で、この"Our boys will shine tonight"ですが、
作者不詳のいわゆるTrad.印なので自曲に取り入れた人もいる、
といってもそれ自体たいへん古い話。
もう一丁。Dukes of Dixieland版。

Kerry Mills の At A Georgia Camp-Meetingという曲ですが、聴き比べると確かに"Our boys will shine tonight"が入ってる。
このケリー・ミルズという人、日本でもサトウハチローが詞をつけた「赤い翼」なんて曲が知られてるかと思いますが、ぼくが知ってるんだからみんな知ってるはずですよね、ヤマケー。
ニューヨークのいわゆる"ティンパンアレー"の始祖の一人。
この曲書いたのが1895年くらいらしいですから、その頃には既にスタンダードになっていた、んだと思います。


さあ、もうこのへんから立教もセントポールも天理も関係ないオマケの話ばっかりですよ、
甲子園とかの応援団、いわゆるリーダーってのが腕を上横に振って応援歌の音頭取りするやつ、あんなの日本だけだよなー、なんて思ってたんですけど、You tube漁ってたらこんなの見つけましたよ。
アラバマ州のConcordia Collegeだそうです。
リーダー役は女学生ですが、なんだか日本のとよく似てますね。


これなんかも目を瞑って聞いてると甲子園のアルプスみたいな音です。
UCFっていうからフロリダ中央大学のようです。
あれ、ここってフットボールチームに馬鹿ノ鵬が潜りこんだとこだっけ?
違った。それはもっと2~3流下のWebber International Universityだった
それに既に辞めてやがるし。
" Winner of Imperial Tournament"ってなんだよ本場所で白星上げたってだけだろが、
ってネタもう前にもやってたっけ?


いろいろ見てるとかっこいい応援歌持ってるとこありますね。
甲子園な学校も、どうせパチってくるなら海外に耳を向けてみてもいいじゃないでしょうか。

例えばヒューストン大学。

NCAA10校詰め合わせ。
なーに、ちょっとアレンジしたり繋ぎ変えたりしちゃえば判りませんよ、
みんなどっかしら似たようなもんなんだから。


なぜかわざわざ最後に持ってきたのはミズーリ大学の応援歌。
これも結構かっこいい。
パクろうぜ~コピろうぜ~インスパイアだっ、リスペクト からのオマージュだっ!
このミズーリ大学の運動部"Missouri Tigers"のマスコットの虎の名前、ミズゾーっていうんですね。
「ゆるキャラ」なみに流れ任せなネーミングで、そうゆうの嫌いじゃないです。


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