前回は千万分の一の地球儀を用いて地球・月・太陽の大きさや距離について書きました。
今回も同サイズの地球儀を時々使ったりしながら地球を取り巻くあれこれの寸法を書いていくつもりです、今のとこ。
なのでおさらい画像を2点。
千万分の一の地球はこんなサイズ |
縮尺換算の目安 |
さて、今回はISSからまいりましょう。
ISS:国際宇宙ステーションですが、これがどんな軌道で飛んでるかと言うと、半径6,780kmくらいです。
地表から数えると400kmちょっとです。
てことは千万分の一、直径1.27mの地球儀で言うと、4cmくらいのとこです。
400km幅の黄色い帯であらわしてみました。
ISSの画像を不適当なとこに不適切な寸法で貼ってみました |
この黄色い帯の外側に沿ってISSは周回しています。
それだけじゃ絵面的に寂しいんで、サービスでISSの姿を置いてみました。
エンデバーがドッキングしています。
撮影日が2011/05/23とのことなので、退役ミッションですが、誰がどこから撮った写真でしょうね。
こんな近いのに「宇宙」だったり「真空」だったり「無重力」だったりするそうです。
前々回、ノートにコンパスで一億分の一のの地球を描き、凸凹や歪みもすっかり0.5mm幅に収まるよ、というのをやりました。
では宇宙ってどこから宇宙なんでしょう。地球の大気ってどのくらいの厚みがあるんでしょう、と。
「ここから先が宇宙」というラインは特に決まっていません。
気象、天文、航空、軍事、宇宙開発でそれぞれ便宜的になんとなく決めてるだけで、厳密に決めたところで今のところ例えば人工衛星がある国の領土上空を通過したところでそれは領空侵犯とは言わないよ、何キロから下が領空とかも特に決めてないけどね、と、そんなところです。
一応地表から100kmを目安にカーマン・ラインというものがあるにはあるんですが、特に政治的にも軍事的にも科学的にも重視されてるわけでもありません。
「大気圏出たら宇宙でしょ」
大気圏の定義もあやふやです。
地球大気の成分自体は、とっても薄いですが、とんでもなく遠いところまで及んでいて、半世紀前のアポロ計画、ルナ計画で地球-月間をしばしば往還していた頃には既に「地球-月の中間点でも地球大気成分が検出される」となってますから、大気成分がある所=大気圏とすると、とても無意味無用な範囲設定になります。
以下しばらくは今回深入りしたくない無用な話ですが、
大気圏自体は、そこで認められる様々な成分構成や事象を元に5層に分類されています。
下から順に対流圏、成層圏、中間圏、熱圏、外気圏、と。
対流圏は海面等から巻き上がる水蒸気を含み、またその影響で様々な気象現象が起きる層、すなわち「雲の出るところ」としてザックリ10,000mくらいまでとされています。
成層圏にも特殊な雲は出来るんですけど、水蒸気以外に硝酸や硫酸を核にした、ほんと特殊な雲です。逆に言うと対流圏で起きるのが気象現象、成層圏以上で起きるのは天文現象とされる、と言えば若干過言ではありますけど、まあそんなもんだと。
中間圏は、あのー大気圏再突入する宇宙船が大気成分との摩擦で燃え出す層です。流れ星が光るのもここです。
熱圏の底あたりが先ほどの高度100kmのカーマンラインにあたり、ここいらへんにオーロラは発生します。
熱圏の上限は厳密に決められていないんですが、おおむね500~800kmくらいかと。
最上層の外気圏に至ってはどこまで行ってもキリ無いんで便宜上10,000kmあたりにしとこうか、と。大陸間弾道ミサイルの中にはこの外気圏にまで至って再突入するのもあります。
とまあそんなかんじです。
下二層、対流圏と成層圏の模式図置いときます |
水分を含まない乾燥しきった空気が地表上の密度でかつ0℃の時、って条件が多いですけどとりあえず1リットルあたり1.293グラムということになっています。
で下図のように計算しました。
約8,000m、エベレストの最終キャンプは均した大気からははみ出します。
昔この仮定大気を「斉一大気」って呼んでたんですけど、近頃は見かけませんね、なんて呼んでるんでしょう。
で千万分の一の地球に落とし込むと0.8mmです。
大気圏? いやいやいや…大気膜でしょ。
今回冒頭のマリリンさんの写真で0.8mmですよ。
この大気膜の中を太平洋や大西洋横断するような旅客機は片道200リットルのドラム缶千本分くらい(乗客一人当たり2本分以上)の燃料焚いてその千倍以上の排気出して日に何百本も飛んでるんです。2,000ccのクルマ2,500rpmで走らせたら1分に5,000リットル(排気温度)の排ガス出して走ってるんです。1m×1m×1mの立方体5つ分が毎分。それが何億台も。
大丈夫ですか、地球。
案外だいじょうぶなんですけどね、とも言えるし結構一杯一杯とも言えますが、それは別件としてここでは深入りせず逃げますよ。
というわけで、ISSは5層にわけた下から4番目の熱圏の、そのまた下の方を周回しています。
そのISSから撮った満月昇る地球の絵でも。
地平線がほとんど平らに近いです。緑がかった層が水分含んだ対流圏かなー、青白くなってやがて漆黒の背景に溶け込むあたりが成層圏かなー。
このあたり、地表から400kmちょっとのところを時速27,600km(秒速7.667km)で、地球一周92分40秒くらいで回ってる、それがISSです。
要するに例えばISSが東京の真上を通過する時、それは水平に言ったら大阪くらいの距離です。光の速さで交信すると片道0.00133秒で届きます。
ちょっとピンとこない時間ですけど。
行進曲のテンポが♩=120とすると16分音符の半分の半分の半分の半分の半分の半分の1024分音符に付点ついたくらいの時間です。ますます判らないなこりゃ。
このあたり大気成分あります。と言っても並みの高校の化学実験室でできるレベルの真空の2、3桁低い密度の真空ですけど。
地球の重力、もちろん及んでいます。及んでいるから飛び出してどっか行っちゃわない。じゃあなんでテレビで見るISS内部の様子は無重力なんだ、という話については際限なく長くできるんでまたいずれ。
身近な人工衛星として、「静止衛星」ってのがあります。
「気象衛星ひまわり」とかBS・CS、一般的に使われる物ではないですが「きずな」、「こだま」なんてのもあります。
赤道上空を地球の自転速度と合わせるように一日に一周してるので、まるで一定の位置に止まってるように見え、アンテナをそっちに向けておけばそこから動かない便利な衛星軌道です。
これの距離が地表から35,786km、地球中心から計れば半径42,164km直径84,328kmの円を描いて周回している衛星です。
84,328kmに円周率を掛けて24時間で割ると時速約11,000kmです。
ISSより遠いところを半分以下のスピードで飛んでいます。
さて、この直径84,328kmをまた千万分の一の世界に落とし込んでみましょう。
前に使った野球場の月公転軌道の画がいいですね。
青い線が静止軌道、直径8.43mです。
バッターボックス周りのダートサークルが直径約7.9m、マウンド上の投球板から本塁がその倍ちょっとの約18.44m、塁間が約27.4mですから3.25倍、こんなもんでいいでしょう。
写真クリックして大きくしてもらえばホームベース上に置いた千万分の一地球が見えると思いますが、ISSの軌道はこの表面から4cmですから書き込みようがありません。
地表から静止軌道まで光速で約0.12秒です。
♩=120の行進曲で言ったら16分音符くらいの時間です。あ、これ少し実感できますね。
静止衛星は通信・放送・地表観測にとても便利なので、世界中の国や企業が使っています。現在250~300個ほど回ってるようです。
これまでに世界中で打ち上げられた衛星は7,000個超、現在もその約半分が現役で各軌道を周回しています。その一割近くが同軌道面、同高度の静止軌道を廻ってるいることになります。
どのくらい混み合っているかというと、適当に265個廻っていると仮定して、
(84,328 × π) ÷ 265 = 999.714058平均1,000km間隔です。100倍増えても大丈夫そうです。
Orbital Elevator 1969 |
上の絵は1969年にNASAで検討されていた頃のイラストです。
車輪型の宇宙ステーションが設置されています。これは自転することで生じる遠心力でステーション内部に擬似重力を作り出し居住性を高めるアイデアでした。
往年の児童向け宇宙読物には必ず登場したドーナツです。スタンフォード・トーラスなどと呼ばれて研究を重ねられ、現在のISSにも日本のJAXAが開発担当した「セントリフュージ」と呼ばれる茶筒型の遠心力を利用した居住実験モジュールが取り付けられるはずでしたが諸般の事情でキャンセルされ、宇宙に行くはずだった現物は筑波宇宙センターの駐車場で雨ざらしになっています。このエントリーの初稿にはこの件についての不満や疑問が長々と綴られていたのですが、「ソ連で半世紀前に開始されて10年前に打ち切られたモルニヤ衛星の劣化版である準天頂衛星を今さら上げさせられるJAXAへの愚痴」などと共に大幅に廃棄されました。
身近な人工衛星といえば今時GPSは外せません。
「グローバル・ポジショニング・システム」というと各国の各種含めた一般名詞ですが、略して「GPS」と書くと米空軍が打ち上げ運用している特定の衛星測位システムを指すことが一般的です。
日本で一般に"GPS"と呼ばれ、カーナビやスマホで利用されているのは、この米国のGPSです。
地表からの平均高度20,200km(地球中心からの半径は26,562km)、12時間周期で一日に2周する準同期軌道面が60°ずつずらして6面、各面に4機ずつで計24機(+補機が数機)で運用されています。
こんなイメージです。
衛星機体の大きさはウソです |
大相撲の土俵直径が4.55mでやや小さい。
UFCのオクタゴンが25フィート(7.62m、辺から対辺の間隔)、大会場だと30フィートなのでそこに適当に軌道描いてみました。上のNASAが出してた画で十分な気もしますが。
外の黄色が静止軌道、内のオレンジがGPS軌道 もう寝ぼけながら本題そっちのけでいい加減な図版作る作業 |
代表的な各種人工衛星の軌道の比較図です。
最外周が静止軌道、
"Galileo"はESA(欧州宇宙機関)の衛星測位システム
"COMPASS MEO"は中国の衛星測位システム、通称「北斗-2」
"GLONASS"はロシアの衛星測位システム
"Iridium"は米モトローラ社の衛星携帯電話・データ通信衛星
"Hubble"はNASA/ESA共同運用の宇宙望遠鏡です。
十文字の目盛の
上は地球一周にかかる時間、下は時速、
右は地表からの高度、左は地球中心からの周回半径で、左右座標の単位"Mm"は百万メートル=千キロメートルです。
わかりやすいですね、これで十分でした。
さて最後に衛星軌道を飛び出して、地球と火星、およびその間あたりの小惑星の距離を千万分の一の縮尺で見てみましょう。
いいですね、この中心に野球グラウンドくらいの太陽があって、直径1.27mの地球が赤い円を回ってるんですよ。
「イトカワ」というのは「はやぶさ」が7年かけて往還達成した訪問先です。
「世界初! 月以外の天体の固体表面からのサンプルリターン」
「おかえりはやぶさ、50億キロの旅」 (60億キロとも)
と、大変な話題になり日本の宇宙開発の技術力を全世界に示したあれです。
「月以外の」とは、月はアポロ計画で半世紀近く前に「月の石」を持って帰って来ましたし、
「固体表面からの」というのは同じくNASAの"Stardust"が彗星の尾に飛び込んでサンプル採取し、2006年に帰還回収成功してるからです。
「50億キロ」とは?
上図の通り、地球の公転半径は約1.5億kmであり、イトカワのそれは近日点でその0.95倍、遠日点でで1.7倍、2億5千万kmほどです。
上図の赤い円上から青い円上に行って帰ってどうしたら50億kmとか60億kmとかいう数字が出るのでしょう。
実際"はやぶさ"は最も離れた時でも地球から3億kmほどでした。
50億kmというのは"はやぶさ"が7年かけて太陽の周囲を周りながら"イトカワ"に到達し、地球まで帰還した約5周の「総航行距離」です。
JAXAの方でこれについて簡単な説明が出ています。
「はやぶさ」の総航行距離?
「確かに、「**億kmの旅をした」というと、直感的には分かりやすい(分かった気になる)わけですが、ちょっと掘り下げて考えてみると上記のようにあまり意味がないことになります。」と最後は身も蓋もない投げ出しぶりですが、距離感や意味がわかるとそれはそれでその凄さがわかるんじゃないかと思います。
おしまいに有名な「はやぶさ 最後の写真」を置いておきます。
これはキレイな天体写真を撮るためのカメラで撮ったのではありません。そんなもんとっくに機能してませんでした。
測距・姿勢制御用の光学センサーが検知して地球の司令室に送信したデータを解析処理した画像です。
この直後に"はやぶさ"は故郷の大気に突入してサンプル容器を地球に放り込みながら粉々に燃え尽きました。
"はやぶさ"が見た最後のふるさと地球の姿です。
送りかけの走査データが最後途切れてたり、今でもこの写真をみるとうるうるしてしまいます。
2010/06/13 |
やれやれ終わった終わった。
1 地球を測る地球で測る
2 地球の丸さ
3 地球・太陽・月の大きさ