土曜日, 11月 27, 2010

絶望的音痴が高らかに吹き鳴らすラッパの煩わしさ

 「そのきっと素晴らしく猛々しい御主張はBlogに書いたてみたらいかがですか」、という熱烈な提案があったので篤実なぼくとしては従順にそうしてみようと思います。

 いつもながら呆れさせて下さるサンケイの記事ですが、いつにも増して偏狭な視野を誇大な妄想で補わんとするサンケイ節が溢れかえる「北朝鮮の狙いは水爆の保有だ!」と題するこの記事ですね。

北朝鮮は砲撃に先立って、訪朝したヘッカー元米ロスアラモス国立研究所長に対して、秘密裏に建設した最新のウラン濃縮施設を視察させ、遠心分離機2千基が稼働していると説明した。このニュースに接して、北朝鮮の狙いは水爆保有にあると直感した
 国内ではそこまで踏み込んだ見方は出ていないが、高濃縮ウランの製造を軌道に乗せた北朝鮮は原爆よりも破壊力が格段に強い水爆保有を目指すのは間違いない
 ウラン濃縮をすることが何故水爆保有に繋がるんだろう?
 なんで直感しちゃったり間違いないとか確信しちゃったりしたんだろう?
 と思って記事の続きをよんでもサッパリ書いてない。
 たぶん根拠も因果も相関も何も無い妄想。無知の露呈。
 最後の方にようやくこんなことが書いてあった。
水爆は原爆を起爆装置として使う。その原爆にはウラン235型とプルトニウム239型があり、ウラン235型の方が起爆装置としては適しているとされている。北朝鮮がウラン濃縮施設を建設した意味は重大だ。プルトニウム型原爆やウラニウム型原爆だけでなく、北朝鮮がその原爆を起爆装置に使った水爆を保有する日はそこまで迫っているといっていいかもしれない。 
もしかしたらこれが根拠として十分であると、笠原健って人は本気で思ってるのかもしれない。
もしかしたらサンケイ読者なら煽れると、笠原健って人は本気で思ってるのかもしれない。
もしかしたらサンケイ読者なら大喜びで憂国しちゃうのかもしれない。

そりゃ超長期的視野として将来的に水爆保有を目指す意思が北朝鮮にまったく無いと言う根拠はぼくだって持たない。 でもそりゃ無理だ。北朝鮮単独あるいは同盟国間で有人宇宙基地作るってより無理だ。それを今から心配してるような記事が教育水準の高さを世間知らずにも誇ってる日本人に対して公然と発行されてることは記事の執筆者の出自をこの際問わぬとも、はなはだ心許ない。もっとも読者層を鑑みれば果たしてほんとに日本人を対象に発行されてるんだかどーだか疑念もございますが。

 まず前提として北朝鮮は爆縮型原爆を作る技術を保有していない。ガンバレル型ですら予定出力に満たないグチャぶつけの残念作しかできない。 仮に材料揃えたからって水爆を造る前提に立てる訳じゃないのにそれ以前のレベル。
 それどころか現在保有してるとされる核兵器の運搬手段も持たない、と思う。ここは自信があまりないけど。たぶんノドンやテポドンに積んで打ち上げられるほどの小型化はできていない。核兵器を搭載して潜行できるような航空機・艦船も無い。もっとも北朝鮮の兵士なんて死なばもろとも上等なんで潜行する必要も無いんだけど、とにかくそれは水爆開発とは関係ない話。ってか水爆開発よりそっち辺の方がよっぽど北朝鮮にとって喫緊の課題でしょが、って話。水爆開発なんか夢見るより先に不出来なガンバレル型でもいいから弾頭の生産拡大するとかさ、その運搬手段の拡充するとかさ、ノドン・テポドンに積めるよう爆縮型の開発で小型化進めるとかさ、それが現状まるで出来てないのになに飛び越したこといってんだか。

 でもって、水爆製作の材料も揃ってない。というか材料確保の手段を今まさに放棄しようとしているのが今の局面。
 北朝鮮の持ってる程度の遠心分離機では水爆を起爆するための原爆のための燃料は作れない。せいぜい構造材級、それもその原材料作るのがやっと。兵器級核燃料を作るとしたら寧辺の黒鉛炉から取り出す使用済み核燃料を素材とするか輸入するかな訳でしょ。ところがその黒鉛炉は放棄の方向で軽水炉の建設を再開した、というのが今週の流れ。笠原健は軽水炉建設再開の意味を理解できないらしい。もし理解できてるとしたらどうしても無視したいらしい。
 ご懸念の北朝鮮の遠心分離機で濃縮できるのはせいぜい燃料級ウランであり、核兵器として、ましてや水爆の起爆剤足りえない。今まず軍事用途として心配すべきはむしろその副産物たる劣化ウランであり、原子力艦船とりわけ潜水艦なわけで、叩きどころ騒ぎどころは圧倒的にそっち。
 とついでだからも少し言うと、水爆の起爆に必要なのは御言及のU235かも知れないけどさ、放射線を閉じ込め融合部に集中させる減速・圧縮壁としてU238も必要、追加熱源としてPu239も必要、それが現代の核兵器の常識。もちろんそんな矮小な常識を大胆に無視したU238やPu239を要しない核融合爆発技術を峻烈なる主体思想が将軍様の寛大なるおこころざしと合致した結果、北朝鮮が独自に開発・獲得する可能性は0では無いだろうけどね。何しろ今年の5月には世界に向けて独自技術での核融合実験に成功したって臆面も無く発信しちゃうくらい脅威の科学力を有する国だけに。
 とにかくつまり水爆は原爆を起爆装置として使う に始まる最後段の一節は、まるで何の説明にもなってない。

 たぶん笠原健はその程度の科学的・軍事的知識も無く吹き鳴らしてるんでしょーけど。
 遠心分離機が二千台稼動と聞いて前段すっとばして二千台の持つ意味の評価も出来ず、いきなり水爆開発の予感を持っちゃうってのは滑稽なまでに荒唐無稽であり、私はバカですとの告白同然。

 あのー比べるのも失礼かも知れないレベルですけどね、先の大戦中だったか開戦前だったか忘れましたけど、「石油燃料が不足するんなら大気中に無尽蔵に存在する水素を燃焼して動力とする航空機を開発せよ」って動議が帝国議会で出て、それがまた満場喝采で同意を得ちゃったって話があるんです。でも大気中に燃料たりうる酸化してない水素なんて0.01%も無いんですよ。そりゃ重水軽水分別なく片っ端から核融合しちゃう夢あふれる技術を語ってんなら別ですけど、だったらなんで戦争始めたんだっけ、てな話。義務教育じゃ教えないかもしれないですけど、雁首揃えた国会議員のうち誰一人も異議を唱えなかったもんで呆れかえりましたよ、ってな話が寺田寅彦だったか中谷宇吉郎だったかの随筆集に残ってますね。
 終戦間際には「石炭を使わず電気でどーにかこーにかして高炉より燃料効率が高い新式製鉄法」とかなんとか言う山師の話を真に受けた帝国陸軍が三河三川沿岸の土地を買い占めた、ってな話もありました。あれは国有地として後年役に立ったかもですけど。

 バカに煽られる更なるバカなんかいんのかね、って思うけど、いるから書いてんだろね。

 ってかきっとこの笠原健自信があっちのヨタ記事こっちのヨタ記事に対してなんの検証能力も批判的視点も持たず鵜呑みにして煽られちゃって踊ってるおバカさんなんだろけど。で、それの書いた記事をおそらく複数社員のチェックや関与を経てizaにサンケイ本体サイトにtwitterにrsrに誇らしげに拡散して恬として恥じないデマの創造・拡大・再生産新聞。でもってそのヨタのソースが一蓮托生な朝鮮メディア、ってとこがまたそれらしくってかぐわしい。

 で、なんなの?
 こーやって調子っぱずれでも臆面無くけたたましくラッパ吹き鳴らしてると支社から本社に戻してもらえんの?
 サンケイ新聞の将軍様に忠誠示すとなんかご褒美もらえんの?

 それってやっぱサンケイ新聞の存続を支えるアノ国と同じシステムじゃん。
 チュニおばちゃんと一緒じゃん。

でもって思い出したんだけど今日のエントリーの最初の行の御助言ね。
「愚痴ならBlogで吐くべきである。さもなくば峻烈で無慈悲な殲滅的一撃を与えるであろう」 って警告だったんですよ、あれ実は。震えあがりますとも、そりゃ。